酵母の役割|ワインの味を決める微生物の力
酵母の役割を軸に、発酵の仕組みと実務での扱い方を初心者向けに解説します。歴史的事実や主要なワインタイプごとの影響も紹介。
酵母とは何か
酵母は微生物の一種で、醸造においては主にサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)が用いられます。酵母は糖を栄養にして増殖しながら、香りや発酵副産物を生み出します。自然界に存在する「天然酵母」を使う方法と、特定の性質を持つ「培養酵母」を接種する方法があり、どちらを選ぶかで風味や安定性が変わります。
発酵の基本
発酵とは、酵母が糖をアルコールと二酸化炭素に分解する過程です。これによりアルコール度数が上がり、果実香や発酵由来の複雑なアロマが生まれます。発酵温度、酸素の有無、栄養状態、酵母株の特性が結果に影響します。低温でゆっくり進めるとフレッシュな果実味が残りやすく、やや高温で短時間だと香りが立つ傾向があります。
マロラクティック発酵(MLF)の役割
マロラクティック発酵(MLF)は、乳酸菌によりリンゴ酸が乳酸に変換される過程です。これにより酸味が穏やかになり、口当たりがまろやかになります。特に赤ワインや一部の白ワインで意図的にMLFを行い、バターやクリームを連想させるニュアンスを得ることがあります。
酵母はワインの種類ごとにどう働くか
ここでは代表的な6つのワインタイプと酵母の関わりを簡潔に示します。赤ワイン、白ワイン、ロゼワイン、スパークリングワイン、酒精強化ワイン、オレンジワインに分けて考えます。
- 赤ワイン: 皮や種と共に発酵するため、酵母の抽出・発酵速度が色やタンニンの抽出に影響します。酵母株は香り形成や発酵温度耐性の選択が重要です。
- 白ワイン: 果汁のみを発酵させるため、酵母が生むエステル類などの香り成分が味わいを左右します。シュール・リー(澱と接触させる熟成)と組み合わせることもあります。
- ロゼワイン: 短時間の皮接触で色を決めるため、酵母による発酵速度が色素と香りのバランスに影響します。フレッシュさを残す低温発酵が多用されます。
- スパークリングワイン: 瓶内二次発酵などで酵母が再び働き、泡を生み出します。二次発酵後の澱抜きや熟成管理で風味が変わります。
- 酒精強化ワイン: 製造過程でブランデー等を加えるため、酵母の働きは発酵を途中で止めるタイミングが重要になります。残糖やアルコール度数に対する設計が鍵です。
- オレンジワイン: 白ブドウを皮ごと発酵させるため、酵母の活動が皮由来のタンニンや色素の抽出に直結します。天然酵母を用いるケースも多く、個性的な風味が出やすいです。
歴史と科学的知見
ワインの起源は約8,000年前、ジョージアでの考古学的調査に遡ります(出典: 約8,000年前、ジョージア(考古学的調査))。近代の評価軸が変わった出来事として、1976年のパリスの審判ではスティーブン・スパリュア主催のブラインドテイスティングで新世界ワインが注目を集めました(出典: 1976年、スティーブン・スパリュア主催)。また、ブドウ品種や系統の解明にはDNA解析が重要で、UCデービスのキャロル・メレディス博士らの研究が品種親子関係の特定などで貢献しています(出典: UCデービス キャロル・メレディス博士の研究)。
醸造現場で押さえる酵母管理のポイント
酵母管理は発酵の安定性と最終的な味わいに直結します。具体的には接種の有無(天然酵母か培養酵母か)、発酵温度管理、栄養補給、硫黄管理(SO2の使用)などが挙げられます。初期の酸素供給は酵母の増殖を助けますが、過剰酸素は酸化のリスクを高めます。澱(おり)と接触させるシュール・リーは旨みを増す手法として使われます。
よく使われる酵母と特徴
- サッカロミセス・セレビシエ: 醸造で最も一般的。アルコール耐性や発酵の安定性に優れる。
- 天然酵母: 畑や醸造所固有の微生物叢を反映し、個性が出やすいが管理は難しい。
- MLF乳酸菌: リンゴ酸を乳酸に変換し、酸味を穏やかにする役割を担う。
| ワインタイプ | 酵母の主な役割 | 醸造上の注意点 |
|---|---|---|
| 赤ワイン | 色素・タンニン抽出に影響。香りの生成にも関与 | 温度管理と醸し時間の設計が重要 |
| 白ワイン | 果汁中の香り成分を引き出す | 低温発酵でフレッシュさを保つ |
| ロゼワイン | 短時間の皮接触で色と香りを調整 | 発酵速度が色みに影響する |
| スパークリングワイン | 二次発酵で泡を生む | 二次発酵後の澱処理と熟成管理 |
| 酒精強化ワイン | 発酵停止のタイミングが品質を左右する | 加熱や蒸留酒の添加タイミングに注意 |
| オレンジワイン | 皮の成分を抽出し複雑味を生む | 天然酵母使用や長時間醸しに適す |
まとめ
- 酵母の役割は発酵を通じてアルコールだけでなく香りや質感を作ること。発酵は酵母が糖をアルコールと二酸化炭素に分解する過程で進む。
- MLFは乳酸菌によりリンゴ酸が乳酸に変換され、酸味が穏やかになり口当たりがまろやかになる。赤ワインや一部白ワインで重要な工程。
- ワインタイプによって酵母の扱い方は異なる。醸造温度、酵母株の選択、天然酵母か培養酵母かなどが最終的な風味に大きく影響する。
参考: ワイン起源は約8,000年前のジョージア(考古学的調査)、パリスの審判は1976年にスティーブン・スパリュア主催。DNA解析の代表的研究にUCデービスのキャロル・メレディス博士らの業績があります。