
2025.07.29
悠久の系譜が育む日本固有品種──いま世界が注目する「甲州」ワインの魅
日本ワインの中で、近年ますます国際的な評価を高めているのが、在来品種「甲州」です。アルコールは穏やかで、控えめなアロマ、そして何よりもその繊細な味わいが魅力──まさに和食文化と共鳴する存在です。 近年ではシャトー・メルシャンやグレイスワインをはじめとする造り手たちの努力が実を結び、2024年にはサントリーの「登美甲州2022」がDecanter World Wine Awardsで日本初の「Best in Show」を獲得する快挙を達成しました。
■ 甲州のルーツと神話:日本最古の葡萄品種
甲州ブドウの起源は、シルクロードを経て中国から伝わったという説が一般的です。その名の通り、「甲州」は山梨県、かつての甲斐の国で育まれ、現在でも国内栽培面積の95%以上がこの地に集中しています。葡萄が薬として扱われた時代を経て、1870年代から本格的なワイン醸造が始まりました。
歴史上で特筆すべきは、1877年の「大日本葡萄酒会社」の設立と、フランスへの留学生派遣。これが日本における近代ワイン醸造の幕開けとなりました。
■ 精緻な栽培と醸造技術:雨と向き合う美学
山梨県は日本でもっとも乾燥した地域とされながらも、生育期には1000mmを超える雨量が集中します。これに対処するため、伝統的な棚仕立て(X型パーゴラ)や、ブドウ1房1房にかける“雨傘”のような丁寧な栽培が行われてきました。
近年では、Grace Wineやサントリー「登美の丘ワイナリー」などが、VSP(直立仕立て)栽培にも挑戦しており、すでに高品質な成果を挙げています。
■ 香味のプロファイル:繊細さが醸す余韻の美学
甲州はセミアロマティックな品種で、ユズやカボス、洋梨、米の蒸気を思わせる清らかな香りが特徴。スティルやスパークリングであれば清涼感と透明感が際立ち、シュール・リー熟成や古樽使用により、旨味とテクスチャーが加わります。
さらにスキンコンタクトを行えば、赤果実やオレンジ系のニュアンスを持つ“オレンジワイン”へと進化するなど、表現の幅は広がる一方です。
■ 海外評価とトップワイン
甲州ワインは世界のワインコンペティションでの入賞実績も多く、特に以下の銘柄が注目に値します:
- Suntory “Tomi Koshu 2022”:2024年Decanter Best in Show受賞。エレガンスと深みを兼ね備えた傑作。
- Grace Wine “Koshu Misawa Vineyard”:日本ワインの象徴的存在。ミネラルと塩味、凛とした酸が際立つ。
- Chateau Mercian “Koshu Kiiroka en Hommage a Taka 2024”:20周年記念ボトル。香りの科学的探求と情熱の結晶。
- Kurambon Wine, Koshu Petillant:樽とイーストの香りが至高。
- Rubaiyat Koshu Sur Lie:甲州らしいフレッシュさに加え、熟成由来のふくらみと旨味。
■ なぜいま甲州か──和食との相性と世界市場の可能性
甲州はその洗練された味わいから、寿司や天ぷらといった繊細な日本料理との相性が抜群です。アルコール度数も控えめで、食卓を引き立てる脇役として、あるいは主役として、自然な存在感を放ちます。
世界の若者を中心とした“低アル・高品質志向”や、和食ブームを背景に、甲州はまさにいま、「世界に通用する日本ワイン」として脚光を浴びつつあるのです。
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