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2025.10.09

トレンド産地情報

進化する英国ワイン:スパークリングからスティルへ、そして新たな課題

かつては「趣味」の領域だった英国ワイン産業は、温暖化と投資ブームに乗り、急速に進化を遂げています。特に今年は記録的な猛暑に見舞われ、収穫は例年より大幅に早まりました。この記事では、英国ワインの最新の動向と、進化の裏側にある投資と品質の物語を探ります。

記録的な猛暑と収穫の早期化

2025年の英国の夏は、歴史を塗り替えました。サセックス州にある「ビー・ツリー・ワイナリー」の例に見られるように、ブドウの収穫は例年の10月から大幅に前倒しされ、「史上最も早い収穫」となりました。

この暖かい気候は、ブドウに異例なほどの成熟をもたらしましたが、収穫量は全体的に控えめです。しかし、これが逆に、「危険なほど急速に成長してきた」英国ワイン産業にとって、一つの「救い」となるかもしれません (Robinson, 2025)。

温暖な夏に奨励され、投資家が英国のブドウ畑に資金を投入してきた結果、英国とウェールズのブドウ畑は急速に拡大しています。直近の調査では、総面積4,841ヘクタールのうち、約1,000ヘクタールが樹齢3年未満であり、まだフル生産には至っていません。

スパークリング優位の構造と投資のジレンマ

英国ワインの約4分の3はスパークリングワインが占めています。1990年代半ばにナイティンバーがサセックスで高品質なシャンパーニュに匹敵するワインを造れることを証明して以来、英国のワインシーンは高酸度が強みとなるスパークリングワインを中心に発展してきました。テタンジェやポメリーといったシャンパーニュの生産者が英国に投資しているのも、温暖化でシャンパーニュ地方の酸度が低下していることが一因と見られています (Robinson, 2025)。

しかし、スパークリングワインは瓶内二次発酵という伝統的な製法を用いるため、長期の瓶熟成が必要となり、投資回収に時間がかかるというジレンマがあります。

会計士を悩ませる「過剰供給」と品質

急速な成長の結果、英国ワイン産業はブドウの「供給過剰」という新たな課題に直面しています。

「2023年は2,160万本ものワインが生産されたが、過去最高の収穫だった2018年でさえ、生産量はわずか1,310万本だった」 (Robinson, 2025)。

この急増が、投資家のバランスシートを悪化させています。

しかし、この危機は、小規模で高品質な生産者にとってはチャンスです。ワインメーカーのダーモット・サグルー氏は、会計士が販売予測を楽観視しすぎていたオーナーたちに「キャッシュを確保する必要がある」と伝えているため、通常では手に入らないトップクオリティのブドウが、安価でオファーされている状況を明かしています。彼は、通常トンあたり3,000ポンド以上するトップクオリティのブドウが2,000ポンド未満で提供されていると主張しています。

スティルワインの躍進と「新しいプロフェッショナリズム」

近年の温暖な夏は、スティルワインの生産を可能にし、その品質を飛躍的に向上させています。

専門家のテイスティングでは、出品された300本以上のワインのうち、半数以上がスティルワインでした。これは、シャルドネ(31%)、ピノ・ノワール(28%)、ピノ・ムニエ(9%)といったスパークリング用のブドウ品種がスティルワインにも転用されているためです。

批評家であった筆者も、現在の英国ワイナリーには「新たなプロフェッショナリズム」が生まれていることを認め、特にエセックス州のクラウチ・ヴァレーのような地域で造られたスティルワインに高い評価を与えています。英国ワインはまだ輸出量が少ないものの、その品質は確実に「本格的で、楽しめる、しっかり造られたワイン」へと進化しています。

参考文献

  • Robinson, J., 2025. The changing face of English wine. [online] JancisRobinson.com. Available at: https://www.jancisrobinson.com/articles/the-changing-face-of-english-wine [Accessed 7 October 2025].

冷涼な高緯度産ブドウがもたらす、研ぎ澄まされた高貴な酸を持つスパークリング

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ハッティングレイ・ヴァレー / クラシック レゼルヴ ブリュット N.V.

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スパークリング - 辛口シャルドネ50%、ピノ・ノワール30%、ムニエ20%

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イギリス/イングランド

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