
2025.07.03
自然派志向の新時代──ピーヴィー(PiWi)がもたらす静かな革命
近年のワイン界では、「自然との共生」を掲げ、極力手を加えないワイン造りが注目されています。除草剤や殺菌剤の使用を抑え、ブドウ本来の生命力と土地の個性を引き出す――そんな哲学を支える新たな選択肢が、今静かに勢力を伸ばしています。その名は「PiWi(ピーヴィー)」。
PiWiとは何か?
「PiWi」とは、ドイツ語の「Pilzwiderstandsfähig(カビ耐性)」に由来する略語で、病害に強いハイブリッド品種の総称です。ヨーロッパ系のヴィティス・ヴィニフェラ(シャルドネやピノ・ノワールなど)と、病害に強いアメリカ原産のブドウ品種を交配し、味わいと強靭さを併せ持つよう設計されています。
フランスでは1970年代に一時姿を消しましたが、気候変動とサステナビリティの観点から、今再び脚光を浴びています。
生産者たちの声──「手間がかからず、未来志向」
ドイツ・バーデンのザールリンガー家は、すでに畑の20%をPiWiに転換。特に「ゾーヴィニエ・グリ」は小粒で病害に強く、しかも味わいが良く「人生が変わる」とまで絶賛されています。
フランス南西部のロマン・トゥルニエ氏は、雨と湿度の多い気候に直面し、「自分のワインに未来があるならPiWiしかない」と語ります。マスカットの香りを持つ「ムスカリス」とブレンドし、魅惑的で飲みやすいスタイルを目指しています。
イギリス・ハンプシャーでは、ギヨーム・ラガー氏が100%PiWiの畑を展開。収量が安定し、手をほとんど加えずに済む利点を挙げながら、「10年後には、きっとこの品種が主流になる」と確信しています。
現状と未来──まだ“少数派”、だが確実に拡大中
ドイツでの栽培比率はまだ3.5%ほどですが、その栽培面積は着実に拡大中。現時点では「クラシックなブドウ」に比べて認知度の面で課題はありますが、環境への配慮と安定生産、そして風味の個性を兼ね備えたPiWiは、次世代ワインの新たなスタンダードになる可能性を秘めています。
おすすめPiWi品種
- Souvignier Gris:軽やかな苦味とエキゾチックな果実香、低アルコールで爽やか。
- Muscaris:マスカットの華やかさを受け継ぐ香り系。
- Cabernet Noir / Cabernet Jura:黒系果実のアロマに、意外なほどの酸と繊細な余韻。
- Solaris:早熟で高緯度でも熟す。北欧やイギリスに適した新星。
気候変動という世界的課題の中で、自然と共に歩むワイン造りは「理想」ではなく「現実」になりつつあります。伝統品種の枠を越え、新たな時代を切り開くPiWi。近い将来、これらの品種があなたのグラスを満たす日が来るかもしれません。