
2025.07.01
世界のワイン消費、60年ぶりの低水準に──背景にインフレと世代交
ワイン界にとって、2024年はまたも逆風の年となりました。国際ブドウ・ワイン機構(OIV)が発表したところによると、世界のワイン消費量は前年比3.3%減の2億1,400万ヘクトリットルに落ち込み、1961年以来の最低水準を記録。これは3年連続の減少であり、近年のトレンドを象徴しています。
インフレと消費者行動の変化
OIVのジョン・バーカー事務局長は、インフレによる購買力の低下と市場の不確実性が消費意欲に大きく影響していると指摘。特にアメリカ(-5.8%)やフランス(-3.6%)など主要市場での減少が顕著でした。一方、イタリア、スペイン、ポルトガルはわずかに安定、または微増を記録しています。
さらに注目すべきは中国の変化です。2019年に世界第5位だったワイン消費国が、2024年には10位に後退。かつての成長エンジンが足踏みを始めた格好です。
こうした動きの背後には、ライフスタイルの変化、社交習慣の見直し、世代交代による嗜好の変容があるとバーカー氏は語ります。
生産量も歴史的な減少──気候変動の影響
消費量だけでなく、生産量もまた歴史的低水準に。2024年の世界ワイン生産量は2億2,580万ヘクトリットルで、前年比4.8%減。こちらも1961年以来の最低記録となりました。
フランスでは生産量が24%減少し3,610万ヘクトリットルに。一方でイタリアは15%増の4,410万ヘクトリットルとなり、世界最大のワイン生産国に返り咲きました。
OIVはこの生産量の落ち込みについて、「異常気象、熱波、干ばつといった極端な気候変動の影響が大きい」とし、ここ15~20年で再び生産の不安定性が高まっていると分析しています。
単価の上昇とプレミアム化の傾向
消費量は落ち込む一方で、輸出額は比較的堅調に推移しています。特に「プレミアム化」──すなわち1本あたりの単価上昇──が続いており、質の高いワインへの関心が高まっている傾向が読み取れます。
バーカー氏は「危機とは言えない」と断言し、プレミアムセグメントへのシフトはむしろ健全な進化と捉えています。
今こそ“真に価値ある1本”を見極める時
市場の低迷を背景に、真に優れた生産者の価値がより際立つ時代が到来しています。量より質。今後ますます求められるのは「物語性」と「信頼に足る生産背景」を備えたワインでしょう。
今こそ、長期的な目線で“熟成に値する1本”と出会うチャンス。地球規模の変化の中で、ワインの世界は静かに再編されつつあります。