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2025.06.17

トレンドニュース

国際的なワインコンペティションの意義と日本ワインの課題

2025年4月、ロンドンで開かれた世界最大級のワイン・コンペティション「インターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)」には、世界30か国以上から200人を超える審査員が集い、日本からも多数の審査員やワインが参加しました。筆者自身も今年、正式なジャッジとしてこの場に立ち、日本ワインが国際的にどう評価されているのかを肌で実感しました。

メダルの重みと、審査の真剣勝負

IWCでは、5人1組のパネルでブラインド・テイスティングを行います。マスター・オブ・ワイン(MW)やマスター・ソムリエ(MS)が率いるこのチームでは、ただワインを点数で評価するのではなく、「メダルに値するかどうか」という厳格な視点で審査します。

また、審査員自身の力量も常にチェックされており、第1週で「落選」したワインが、第2週に紛れて再登場する仕掛けもあります。自身も評価される緊張感の中で、1日に約70本、重厚な赤の「ビッグフライト」などに挑むのは、集中力と体力、そして経験がものを言う世界です。

審査員はなぜ「自腹」で集うのか?

南アフリカ初のMWであり、教育者としても知られるキャシィ・ヴァンジル氏は「CPD(継続的職業能力開発)」が動機だと語ります。世界のスタイルや基準を学び、自らの味覚を研ぎ澄ます。ジャッジの経験は、自国のワイン産業へと知見を還元する役割も果たします。

また、SAKE部門のコ・チェアマンを務める大橋健一MWは「世界の中で、自国の酒がどの位置にあるかを把握する絶好の機会」と語り、コンペティションのブラインド評価がダークホースを押し上げる構造を評価しています。

日本ワインの「現在地」と世界への挑戦

甲州や北海道のピノ・ノワールなど、世界に知られる日本ワインも増えてきましたが、リージョン名やテロワールの情報はまだ十分に認知されていません。実際、IWCで出会う山梨や長野などの「リージョン・フライト」でも、土地固有の個性が国際的に伝わっているとは言い難いのが現状です。

しかし、甲州をはじめとした日本品種が確かな品質で評価されていることは確かです。「世界で戦える入り口を作ること」が今、日本ワインにとっての第一歩なのです。

ワインに宿る「エネルギー」

キャシィ氏は「バランス・強さ・複雑さ・爽快感」、そして「典型性(Typicity)」を重要な評価軸に挙げていますが、私がジャッジとして心打たれたのは、造り手の情熱が伝わる「エネルギーを持つワイン」でした。

どんな天候でも畑に立ち、真摯に向き合って育てたブドウから造られるワインには、人の情熱という目に見えない力が宿っている――それを私は、グラスの向こうに確かに感じました。

Text and Photo by 近藤美伸