
2025.05.15
世界の美食を魅了する、日本茶の新たな可能性──「ティー・ペアリング」が切り開くガストロノミーの未
かつて「お茶くみ文化」の中で“評価の対象”だった日本茶が、今、世界のガストロノミーの舞台で主役になりつつあります。アルコール離れが進む中、注目されているのが「ティー・ペアリング」。なかでも日本茶は、テロワールを感じさせる繊細な香味と、健康的な魅力でレストランのノンアルコール・メニューを彩っています。
日本茶×ガストロノミー──パリの5つ星ホテルでの革新
ティー・ペアリングの先駆けとなったのは、パリの名門ホテル「オテル・ドゥ・クリヨン」のレストラン「レクラン」。MOF(フランス国家最優秀職人)にして、2022年フランス最優秀ソムリエのグザビエ・チュイザ氏が、日本茶の魅力に開眼し、煎茶や玉露をワインのように丁寧にペアリングしています。
宇治園の挑戦──日本茶を世界へ届けるボトリングティー
グザビエ氏が出会ったのは、大阪の老舗「宇治園」。現地で茶葉のテロワールを体験したことが転機に。ヨーロッパの硬水でも品質を損なわず楽しめるよう、同園は2015年から「ボトリングティー」という新たなスタイルを開発。低温抽出によって、日本茶の“渋み”というアイデンティティを守りつつ、欧米の味覚にマッチする味わいを追求しました。
- 煎茶(ブルゴーニュ型):柑橘アロマの「うじみどり」単一品種
- 玉露(ボルドー型):5種のブレンド、品種ごとに香り・ミネラル感・テクスチャーを分担
お茶がワインを刺激する──“煎じる”という発想
グザビエ氏によれば、日本茶の“煎じる”という低温抽出法が、ワインの世界、特にロゼ・シャンパーニュの醸造にも影響を与えているとのこと。ムートン・ロートシルトやクリスタル・ロゼの醸造においても、“煎じる感覚=インフュージョン”が取り入れられているのです。
ソムリエが語る、お茶と料理の極上ペアリング🌿
パリのグザビエ氏、日本橋「アサヒナガストロノーム」の伊藤ソムリエが、日本茶とのペアリングを提案。
🍵煎茶
- 海苔や柑橘のアロマがあり、リースリング的なフィネス
- 春夏の前菜、ホタテ、グリーンアスパラに好相性
- シャヴィニョルなどのシェーブルチーズとも抜群
🍵玉露
- ハーブ、ドライスパイス、旨味の厚みがあり、ブルゴーニュのシャルドネ的な重厚感
- 魚介のソテーや和牛のロティと抜群の相性
- チーズでは熟成チェダーやミモザと見事なマリアージュ
※煎茶と玉露はどちらも緑茶の一種ですが、栽培方法に大きな違いがあります。煎茶は日光を直接浴びて育てられ、玉露は被覆栽培(日光を遮る栽培方法)で育てられます。この栽培方法の違いが、それぞれの味と香りの違いに影響を与えます。
未来へ──日本茶のグローバルな挑戦
「苦味」という感覚がネックになりがちな日本茶も、教育と説明次第で“タンニン”というワイン的表現で美しく伝わります。重要なのは、日本茶のアイデンティティ=テロワールと自然へのリスペクトを守ること。
国内消費の減少に直面しつつも、日本茶はボトリングという形で、ワイン文化と肩を並べながら世界へ飛び出そうとしています。食の新たな名脇役として、日本茶はいま、大きく羽ばたこうとしているのです🍃