
2025.10.23
ワインと気候変動:ボルドーとブルゴーニュに「灌漑」を解禁すべき理由
ボルドーやブルゴーニュといったヨーロッパの伝統的な銘醸地では、灌漑(かんがい)が厳しく制限されています。しかし、気候変動による記録的な猛暑と干ばつが常態化する今、この古くからのルールが見直され始めています。
ボルドーのシャトー・ラフルールがアペラシオン規制(AOC)から離脱したことが再び議論の火付け役となりましたが、科学者たちは、この問題はワインの「テロワール」そのものを維持するための緊急課題だと指摘しています。
気候変動がテロワールを脅かす
テロワールとは、単に土壌の性質だけでなく、気候を含むブドウ栽培の環境条件全体を指す言葉です。ボルドー大学のコーネリス・ファン・レーウェン教授らの2004年の研究によると、「気候と土壌の影響は品種の影響よりも大きく、これらの変数の多くはブドウの水分ストレスの強度と相関していたと結論付けています (Netzer & Pick, 2025)。
つまり、生育期における土壌の水分利用可能性こそが、テロワールを構成する最も重要な要素の一つなのです。 近年、ヨーロッパでは記録的な熱波と干ばつが頻発しています。フランス、スペイン、ポルトガルでの大規模な熱波、カリフォルニアやオーストラリアでの大規模な山火事など、気候変動は世界中のブドウ畑に影響を与えています。
水分不足がブドウにもたらす悪影響
植物にとって水は生命であり、光合成や風味成分(二次代謝産物)の生成に不可欠です。しかし、熱波が発生すると、ブドウの木は気温が30度を超えると気孔を閉じてしまい、水分の流れが大幅に減速します。 この状態が続くと葉の組織が壊死し、葉が落ちてブドウの房が直射日光にさらされます。その結果、「生産されるワインの品質が大幅に低下する」ことになります (Netzer & Pick, 2025)。 イスラエルの専門家は、灌漑は単に量を増やすためではなく、熱波の前後に水を供給することで、ブドウの木への有害な影響を著しく軽減できると主張しています。
「テロワールを隠す」という反対意見への反論
灌漑の反対派は、水を与えることでテロワールが隠され、特定の区画の品質や個性が損なわれると主張します。 しかし、イスラエルで数十年にわたり灌漑を行ってきた専門家は、「思慮深い灌漑を行うことで、各区画のテロワールは依然として明確に現れる」と反論しています。むしろ、品質の一貫性を向上させることすら可能です。 彼らはさらに、「灌漑は、堆肥化、霜を防ぐための畑の加温、あるいは冬の剪定などの標準的なブドウ栽培の作業よりも、テロワールを大きく変えるわけではないと指摘しています (Netzer & Pick, 2025)。
結論:新しい気候条件への適応
伝統的にボルドーやブルゴーニュで灌漑が不要だったのは、生育期に十分な雨が降っていたからです。しかし、今は状況が変わりました。 専門家は、「ほとんどのワイン産地で新しい気候条件が到来していることを理解し、品質と経済的な持続可能性を維持するために適応しなければならない時が来ている」と強く訴えます (Netzer & Pick, 2025)。 当局が緊急時にのみ断続的な灌漑を許可するという現在のEUの方針は、もはや最適ではありません。灌漑をすべてのワイン産地で許可し、生産者がそれを悪用しないよう規制上の制限を設ける必要があります。熟練した灌漑技術の採用こそが、ブドウ畑、ワイン産業、そして「テロワールの概念そのもの」を救う命綱となるでしょう。
参考文献
• Netzer, Y. and Pick, E., 2025. Bordeaux, Burgundy – it's time to irrigate!. [online] JancisRobinson.com. Available at: https://www.jancisrobinson.com/articles/bordeaux-burgundy-its-time-to-irrigate [Accessed 4 September 2025].
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